外資系広告代理店のAE、宝飾品ブランドの広告・PR担当、米アパレルメーカーや映画会社のマーケティング・マネージャー…… 華やかな業界、アクティブな職種が続く。その後は、スポーツブランドのトレード・マーケティング・マネージャー、時計ブランドのSM(シニア・マネージャー)。

転職の度にステップアップ、軽やかに階段を上っているかのように見える山口さんのキャリアだが、その道のりは決して順調というわけではなかった。出産、子育てと仕事との両立という、多くの女性が経験する壁が、山口さんにも立ちはだかった。

「小さな子どもがいると、頻繁に海外出張をするのもままならないですし、勤めていた企業が日本を撤退し、海外に拠点を移すことになっても、転勤することはできませんでした。女性の場合、子どもを持つか持たないかでキャリアが大きく変わってきてしまうんですよね」

しかし、「転職せざるを得ない」状況を、「きっともっといい仕事がある」という発想に変えた、ポジティブな思考が、山口さんを飛躍させつづけた。

「トレード・マーケティングの仕事では、営業と一緒に取引先を回ったり、販売店の要望を聞いたりといった、現場の人たちと接することができました。上の目線から語ってしまいがちなブランドマーケティングに比べると、手応えのある、本当のマーケティング活動という実感がありましたね。この経験が、マーケティングだけに留まらず、ビジネス、経営全体に関わる足掛かりになったのではないかと思います。今のポジションは、その頃の自分があったからなのだと思います」

現在は、某外資系時計ブランドの、取締役・GM(ゼネラル・マネージャー)として活躍する。「部下は、奴隷でも、友だちでも、子どもでもない。管理職は、それを忘れてはいけないと思います」と、自身の管理職としての心構えを語る。 「かつて、『お母さんがついているからね』という姿勢で部下に接したことがありました。でも、それがかえって部下を駄目にしてしまったのではないかと思うんです」。部下と言っても、全員が上司よりも年下とは限らない。

「自分より4歳も5歳も年上の男性を、子どもを育てるような方法で接するのは不自然だなと感じました。それではその方たちの能力をどうやって伸ばしていけばいいのか。私なりの方法をあらためて考え始めていったんです」

こうして少しずつ、山口さんは、部下との最適な距離を計っていった。

「上に立つ人は、どうしても孤独になりがちですよね。だから部下との距離を縮めたくて、友だちのように振る舞ってしまうこともあるかもしれません。でも部下にとって、上司はやはりも上司なんです。上司と部下の関係が崩れてしまってもいけないし、かといってビジネスライクに人間関係をピシッと切ってしまうのも悲しい。その間を、いかにうまく取っていくかというところで、管理職の能力が問われるのでしょうね。私も、今でも葛藤しながら学んでいるところです」

柔らかな表情で語る山口さんの目は、自らの立場を謙虚に受け止め、更なる飛躍を目指そうとする爽やかな自信に満ち溢れていた。



プロフィール
ラグジュアリーウォッチディヴィジョン・
取締役ジェネラルマネージャー
山口 美穂氏

米国の州立大学でジャーナリズム・コミュニケーションを専攻。卒業後、日本に帰国。米広告代理店日本支社、その後、高級宝飾、エンターテイメント、米アパレル業界等でマーケティングコミュニケーションのエキスパートとして活躍。現在は大手ラグジュアリーグループ傘下のラグジュアリーウォッチディヴィジョン 取締役ジェネラルマネージャー。 12歳のお嬢さんをもつお母さん。
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